2014年4月13日日曜日

ハリボテ英語力、ハリボテ知性、ハリボテ人間力

現在は品切れ状態になっているようなので、知らない人も多いかもしれませんが、有坂誠人が書いた「例の方法」というシリーズがあります。調べてみると、津田秀樹という人も同趣旨の本を何冊も出しているようです。

「同趣旨」と書きましたが、その趣旨をWikipediaの記述を借用して紹介すると以下のようになります。

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例の方法(れいのほうほう)とは、有坂誠人代々木ゼミナールの講師時代に教えていた受験テクニックの一つ。及びその方法についての学習参考書マークシート試験などの選択肢問題に関して、問題文を読まずに選択肢の長さや内容から解答を導き出すというもの。
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有坂本人のことばも引用しましょう。
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(前略)"勉強"の目的と"お勉強"の目的とはおのずから異なるわけで、"勉強"の目的は、キザに言えば<真理の追究>で、"お勉強"の目的は<点数の追及>でしょう。その<点数の追究>なんてものは、テクニックを使って要領よくやれということなんです。(有坂誠人   『試験で点がとれる有坂誠人の現代文速解 例の方法』(1987、Gakken)、p.3)
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有坂の言う"勉強"とは「あなた自身が興味をもって、周りがとめてもどうしてもやりたい、そういうもの」(同書、p.2)であるのに対し、"お勉強"とは興味はないがしかたなくやるもので、「イヤなもの」(同書、p.3)だそうです。

この区別は有用です。実際、たくさんの人が同様の区別をしています。ただ、それらを何と呼ぶかは人によって異なっているので注意する必要があります。

さて、読者の多くは明海大学で学ぶ学生、院生のみなさんです(ちなみに、最近はそれ以外の読者が急増していて、ひょっとすると、夏ごろまでには逆転するかもしれません)。みなさんの多くはTOEICやTOEFLのスコアや英検の級などがとても気になっていることと思います。これらのテストは英語学習の動機づけという観点から意味がないわけではありません。《いまはTOEICのスコアが350なので、秋までにはなんとか500まで伸ばしたい》とか、《英検2級なので、今年中には英検準1級を目指したい》とか、「数値」目標が設定され、それに向って努力する。そして、それが達成されたときには大きな喜びが得られ、さらに上の目標を設定し、その達成を目指す。そのときに、《英語が使えるようになりたい》と強く願い、そのための努力の一環として、いま書いたことが行われるのであれば、(とりあえず)問題はないのですが、《将来英語を使わなくてはいけないこともそう多くはないだろうし、別に英語が使えなくてもかまわない。でも、そうは言っても、TOEICで500をとっておかないと進学できないし、就活でも苦労するだろう》と仕方なくやっているのであれば大いに注意が必要です。

言い換えれば、TOEICなどの準備を有坂の言う"勉強"としてやっているのであれば、(とりあえず)問題ないが、"お勉強"としてやっているのであれば、大いに注意が必要だということです。

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【注】二度も、「"勉強"としてやっているのであれば、(とりあえず)問題ない」と「(とりあえず)」という条件を加えたのは、TOEICが測ることができる力は限定的ですので、高いスコアが取れたからと言って万能だというわけではないからです。これはTOEICに限らず、どんなテストにも当てはまることです。
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"お勉強"であれば、スコアの向上だけが目標になります。あるいは、主たる目標になります。そうなれば、「例の方法」の出番となります。少し大きめの本屋さんへ行ってみると、TOEIC、TOEFL対策本がたくさん並んでいますが、まさに「例の方法」指南本のようなものも少なくありません。また、スコア向上のノウハウを教授するプロ集団も存在するということを最近知りました。

そういう視点でTOEICの「公式問題集」を見てみると、出題側もさまざまな工夫を凝らして、「例の方法」では正解に辿りつかなくなるようにしていることがわかります。ただ、こういうことはいたちごっこになるのが世の常で、こんどは指南者側が「例の方法」を改訂させて対応するということの繰り返しになっているようです。

大学生とて霞を食っては生きていけませんので、就職活動を成功させるために「例の方法」を身につけ、スコアを少しでも上げようとする努力を意味がないものだとは口が裂けても言えません。ここで、きちんとさせておきたいことは、「例の方法」を身につけて、どれだけスコアを上げても、それだけでは英語の運用能力に結びつかないということです。

TOEICで800点、900点という高得点獲得者を採用したが、まるで英語が使えないので唖然としたという企業側からのコメントを耳にすることがあります。実際に企業内で英語を使うときには、その企業の実情によって使う英語の種類(語彙、構文など)や英語の使い方が違ってくるでしょうから、そうした観点からの訓練が必要なことは言うまでもありません。ただ、英語が使えないという企業側からのコメントはそういうことではなく、そもそも、英語の基礎力がついていなという趣旨のものです。

どうしてそんなことが起きるのか。もうお分かりいただけると思いますが、英語テスト対策を「例の方法」だけに頼って行っただけでは英語の力はつきません。英語ができるように見えるだけ、見せかけだけの英語力しかないということになります。これをわたくしは「ハリボテ英語力」と呼んでいます(©金子哲士、2014)。
http://oyukio.blogspot.jp/2014/03/blog-post.html

きちんとした企業の人事担当者はこの辺りのところを認識していて見抜こうとします。そういう人が面接者としてやってきたら、ハリボテ君はひとたまりもありません。

地道に英語を学ぶ、当然のことですが、最近はあまりはやらない。でも、これしかないのです。明海大学外国語学部英米語学科では、地道に英語を学ぶことの重要さを強調し、さまざまな講義や演習を提供することでそのための支援を行っています。
http://otsuyukio.blogspot.jp/2013/06/blog-post_18.html

TOEICのスコア向上だけを目指すのではなく、まずは英語とはどのような性質を持った言語であるのかをきちんと把握しておく。これは、発音についても、語彙についても、文法についても、文章についても、使い方についてもあてはまることです。そうした基礎力をきちんと身につけておけば、《結果として》(ここが重要です)TOEICのスコアは上がります。そして、それは就職活動においても大いに力を発揮するはずです。そういう実生活上の《ご利益》もあるのです。

もしあなたが明海大学の英米語学科の学生だったら、だまされたと思ってわたくしの言うことに耳を傾けてください。そして、上で述べた英語基礎力をきちんと身につけた学生が増え、就職活動でよい結果を出し、採用後も力を発揮すれば、《明海の英米の卒業生はあてにできる》という評判が広がります。そして、そのことが明海大学の評判を高め、後に続く、後輩たちに力を与えることになります。

ここまでの話は英語についてでしたが、まったく同じことが、大学で学ぶこと全体にも当てはまります。"お勉強"として大学で学ぶのであれば、望みの企業、よい企業に職を得ることだけが目標となります。それがうまくいくように、「エントリーシートの書き方」「面接の受け方」をはじめ、たくさんの支援を受けることができます。でも、それだけでは「ハリボテ知性」「ハリボテ人間力」しか身につきません。企業の人事担当者はその点についてもとっくにお見通しです。

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【注】念のために書き添えておきます。わたくしは「エントリーシートの書き方」「面接の受け方」などの支援が無意味だと言っているのではありません。逆に、大いに意味があると思っています。問題は《それだけ》に頼っていてはだめだということです。
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どうしたらハリボテでない知性、人間力が身につくか。答えは単純です。自分のあたまで考える習慣をつける。そのために、好奇心と探究心を大事にする。近視眼的な《ご利益》探究をやめましょう。まずは自分を磨いておく。その意味では、新入生のみなさん、よいタイミングでこの記事に巡り合いましたね。でも、2年生、3年生、4年生だって遅くはありません。自分磨きはいつでも始めることができます。そして、自信を掴んでください。すると、《結果として》希望に近い就職への道が開けてくるはずです。ここでも、実生活上の《ご利益》が期待できます。

わたくしの講義を受けると、必ず最初に手渡される文書、それが「受講心得」です。ぜひそれを熟読してください。
http://otsuyukio.blogspot.jp/2013/04/blog-post_12.html

繰り返します。「ハリボテ英語力」「ハリボテ知性」「ハリボテ人間力」なんて意味がありません。本当の英語力、知性、人間力をつけましょう。努力は必要ですが、一生モノの力を得るための努力ですから、ちょっとだけがんばりましょう。ええ、《ちょっとだけ》でいいのです。一度、勢いがついたら、とくに努力などしなくても、やめられなくなります。

近く、今回の記事に書いたことなどを中心に話をしたいと考えています。そのときは改めて、このブログでご案内します。







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